新幹線通勤日記(4/4)

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2000年5月17日(水)

 海外出張のため成田空港に向かう。新白河駅から乗車できる新幹線 では間に合わないので、5:28発の在来線を乗り継いで那須塩原駅 から始発の新幹線に乗らねばならない。寝坊したら取り返しがつかな いので、目覚ましを2個セットした。日々の通勤では、終電の時間さ え気にしていれば済むのだが、出張時は、何時まで東京にたどり着け るかがポイントとなる。間に合わないようであれば、前泊もやむを得 ない。出張から帰ってきた時も、東京に戻る時間が遅いと自宅まで帰 りつけないことになる。
  始発の在来線には、ほとんど乗客はいない。たまたま、同じ車両に 乗りこんだサラリーマンの方と話をすることにする。彼も出張で、羽 田から女満別空港(北海道)に飛ぶとのこと。元々は川崎に住んでい たらしく、白河に越してきてもう10年になるという。当初は元の勤務 先への新幹線通勤を考えていたが、様々な事情を考慮した結果、白河 にある工場勤務を選択したとのこと。もう少し早い時間の新幹線があ れば楽なのにと意気投合する。

 

5月30日(火)

 新幹線通勤の話題になると、大半の方にとっては全く縁が無い特別 なケースなので、その実態を知らない方が多い。福島県から通えるの ? 真っ暗な時間に家を出るの? 定期代はいくら? 体が大変だよ ね? などと言われることもしばしば。「7時に家を出れば、8時30 分には会社に着くよ」と言うと驚く方が多い。「なんだ、俺より遅く 家を出ているじゃないか……」と愚痴られてしまうこともある。
  駅へのアクセスが便利で時間が合うのならば、新幹線通勤はみなさ んが思われるほど大変なものではないのだ。時には、新幹線通勤を真 剣に検討されている方の質問を受けることもある。実家から通いたい、 転勤になったが自宅から通勤したい、はたまた田舎暮らしがしたい、 などなど、みなさん様々な事情をお持ちだ。新幹線は通勤時間を短縮 する、あるいは、通勤可能エリアを拡大する秘密兵器なのだが、高価 な定期券代の大半(できれば全額)を会社が負担してくれるのでなけ れば、まず実現は難しい。費用面がクリアできれば、時刻表を調べて 実際に通勤が可能なのか、どんなタイムスケジュールになるのかを検 討してみることになる。運行間隔や終電の事情も重要ポイント。乗車 すれば90分で着くと言っても、乗り遅れると次の新幹線は80分後なん ていうケースもあるからだ。少し寝過ごしただけでも、はるか遠くの 駅まで行ってしまうことになる。
  しかし、最も大事なことは家族の賛同が得られるかどうか、という ことである。新幹線通勤になっても同じ職場に通う自分と、100%生活 環境が変わる家族とでは重みが違う。家族の幸せなくしては、新幹線 通勤は成り立たないのだ。また、時間の有効活用法を見出すことも大 切な要素。リクライニングシートに座って、睡眠、読書、食事、パソ コンなど、不足しがちな時間を車内の時間で補い、楽しむことが出来 れば、新幹線通勤は、あなたにとって、きっと貴重で有意義なものと なるだろう。その為にも、座席に座れるかどうかは重要なことなので ある。

 

6月2日(金)

 白河に住んでいると言っても、平日の大半は東京で過ごしているわ けで、地元の情報に疎くなりがちである。家に帰ると、光化学スモッ グ警報が発令された話で大騒ぎだった。一瞬、我が耳を疑った。白河 は自然がいっぱいで、空気が美味しく、星空もきれいだと自慢してい たのに、なんと光化学スモッグとは。地元の方も、こんなことは前例 が無いと言っていた。後日、新聞の解説で知ったのだが、原因物質は 白河には無く、遠く首都圏方面から風に乗ってやってきたらしい。首 都圏の影響がここまで及ぶのかと驚くとともに、この一件は、首都圏 ではある意味慣れっこになっていて驚かないのかもしれないが、白河 に住んでいるからこそ問題として認識できたのではないかと感じた。 白河、東京を行き来している私は、ともすれば、どっちについても中 途半端になりかねない。自分の存在場所は、視点は、どこにあるのか と考えさせられた一日だった。

 

6月3日(土)

 白河に越してから、家内はガーデニング(そんなお洒落なものでは ないのだが)にはまっている。ご近所さんからよく野菜のお裾分けを いただくのだが、我が家の庭の大半の草花も、種や苗をいただいて増 えていったものである。
  芝生を貼ったきり全く庭に手を出さず、昼間っからパソコンに向か う私に、たまには庭のことでもやらないかと、家内が誘う。そこで、 逆提案をし、子供達が学校から戻る前に、地元の白河フラワーワール ドに行こうと誘う。バラやあやめには時期が早かったが、ジャーマン アイリスと一面のポピー畑が見事であった。帰りにいただいたポピー は、帰宅後、すみやかに我が家の庭の一員となる予定である。帰る途 中、馴染みの店である火風鼎(かふうてい)で、新メニューのわんた んラーメンを食す。白河の食通の間では、ちょっと知られたラーメン の名所である。庭仕事から逃れられ、家内との束の間のデートも出来 てなによりであった。  首都圏のように多種多様な施設は無いけれど、この広大な空間に流 れるゆったりした時間が私は好きだ。こうした点に幸せを感じられる のならば、きっとあなたも、田舎暮らしを楽しむことが出来るだろう。

 

6月9日(金)

 飲み会があり終電で帰る。金曜日とあって、ホームに並ぶ人も多い。 始発の東京駅でなければ座れないだろう。今日は空調の効きが悪く蒸 し蒸しする。車内で寝ることなど滅多に無いのだが、酔った体に新幹 線の適度な揺れが加わり、いつしか眠りに落ちていた。はっとして目 覚めると宇都宮駅。多くの乗客が降りたため、空いた3列シートへと 横になり、完全熟睡状態に陥る親父達が続出。どこまで行くのかなと 少し気にしつつ、新白河駅で降り家路を急いだ。仮に寝過ごしたとし ても、明日はお休みなのだから、やっちまったかと頭を掻きながら軽 く受け流せるようでなければ、新幹線通勤は続けられない。これは、 新幹線通勤者としての私の流儀である。
  明日は、小学校のグランドで自治会のソフトボールの練習がある。 夏の市民総体に向けて、この時期になるとチームが結成されるのだ。 私にとっては、日頃希薄になりがちな地元との関わりを取り戻す重要 なイベントでもある。家族は、夏休みのキャンプ計画を練り始めてい る。候補地はもちろん、我が家から車で数十分の那須高原である。ま もなく梅雨の季節であるが、その後は、本格的な夏の到来。白河もま た、アウトドア活動に最適な季節となる。